Chandler Limited-LTD-2 Mastering Pair




コンプレッサー/リミッター


レコーディングの世界は超保守的です。もはや病的と言っても良い位、古い機材の音に憧れています。
それは、ギタリストがビンテージのギターを欲するのと全く同じです。見た目やコレクションのためではありません。
古いアナログ機材が持っていた、楽器としての響きを、現在の大量生産された製品が失ってしまっているからです。

しかし、ギターとは違い、業務用の録音機材は巨大なものが多く、それを維持することは大変な困難を伴います。
銘記と呼ばれた機材達も、寿命や機材更新に伴って、次々と廃棄されてしまいました。

90年代頃、古い機材からパーツを取り出し、必要な部分だけを小さなラックケースに収めて使用する「ラッキング」が流行りました。

色々な会社がそのような「製品」を作りましたが、世界的に有名になった会社の一つに、Brent Averill (BAE) 社があります。
Brent Averillは人名で、有名なレコーディングエンジニアです。当初自分のために作っていたツールが世界的なブームとなり、
彼はビジネスマンとしても成功しました。
(2010年、突如社名をBAE=British Audio Engineering 社と変えました。いつの間にか本人の名前を外したことから考えて、
資本関係が変わったのかなと憶測します。)

そのBAE社のエンジニアとして辣腕を振るっていた人物が、Wade Goeke氏です。
彼はBAE社を退社した後、たった一人で Chandler Limited 社を設立し、ハンドメイドで機材を制作、やがて頭角を現します。

BAE同様に、クラシックNEVEのリプロダクト製品から始まり、アビィロードスタジオのクラシックコンソールをリプロダクトするなどの古典的な製品だけでなく、
ゲルマニウムトランジスタを使った新しいマイクプリを発表し世界的なヒットを記録するなど、彼は今や録音機材エンジニアとして頂点を極めています。

Chandler Limited 製品の特徴は、手抜きのない本物の仕事を貫いていることでしょう。今やNEVEのリプロダクトを謳う製品は世の中に溢れています。
本家のAMS NEVEでさえリプロダクト製品を販売していますが、それらはクラシックNEVEと設計図は同じでも、中身は全くの別物です。

Chandler Limitedは大量生産に必要な手法をあえて捨てることで、他社が真似の出来ない製品を作っています。
例えば、プリント基板の素材、半田、パターン、製法、そこに使われているパーツ等々を、ビンテージNEVEと同じ素材、同じ手法で作り、
それを手作業で加工するという、途方も無いやり方をしています。
古典的な製法のものが入手不可能な入出力のトランスは特注で制作しているそうです。
(一部のモデルでは何と手巻きとか。)

他のリプロダクトが回路だけのコピーであるのに対して、Chandler Limitedは完全なコピーです。
これは、Brent Averillの一部でも見られましたが、今となっては誰の仕事だったか想像することは難しくありません。



本題に戻りましょう。
Chandler Limited-LTD-2 はNEVE2254のコピーを内蔵した、全く新しいコンプ、リミッターです。
心臓部は、NEVE2254のカードをデッドコピーしたもの、それにWade Goeke氏が改造を加えた、いわば、カスタマイズモデルのリプロダクトです。

内部には明らかに古典的なカードが、コネクターを介してマウントされており、現代的な要素は何一つ存在しません。
ランプすらつかないVUメーターと4つのつまみ、この機材に必要なものはオペレートする人間の正確な耳のみです。

Mastering Pair はペアマッチングを行い、ステップゲインを採用した、マスタリングスタジオ向けカスタムモデルです。
もちろん通常のトラッキングにも使用できます。

音質はもう本当にアナログです。クラッシックNEVEの魔法という卑怯な呪文が内蔵されています。
本機でコンプレッションされた音は、言うならば歪んでいるのですが、大きな音量を入れた時だけにクリップ的に歪むのではなく、
信号そのものが柔らかく歪みます。

少なくともあと10年は、あるいは永遠に、デジタルで再現することは不可能でしょう。



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